平家物語は琵琶法師によって語られた物語であるが、
成立自体は定かではない部分が多い。
こういう余白に歴史のロマンを感じざるを得ない。
『茜唄』 今村 翔吾著 角川春樹事務所
ある人物が平家物語を口伝する形で物語が進む。
そして、その時々でタイムスリップしたかのように実際の場面が語られる。
平家の栄華が徐々に陰り始め、清盛の死後を堺に没落へ進む様子を
平知盛の視点で描いた傑作。
時代が変わり、源頼朝を筆頭に源氏の勢いが増す中、平家が生き残る道を探る知盛。
その姿は『お家を守りたい』という感情に閉じず、平家とは、武士とは、人とは、、、
それぞれが生きたことをどう考えて伝えていくべきなのかを考えさせられる。
私の拙い知識では、平家はヒーローではなかった。
栄華を極め、自堕落な生活によって然るべくして源氏に滅ぼされたと思っていた。
しかし、平家を主役にしたこの小説を読んで考えが変わる。
平家も間違いなく、あの時代のヒーローだったと感じた。
時代小説は私の中ではビジネス書に相当する。
それは、生死をかけた戦いに向けての心構えであったり、戦略や戦術、交渉術は
現代に置き換えるとビジネス現場で活きると思うからである。
この小説において、私自身の気持ちに響いた一文を紹介したい。
『大将とは必勝を誓いつつ敗れた時のことも考える。
この矛盾を抱えることが出来る者が務めるものである。』
この一文は壇ノ浦の戦いで敗戦が濃厚になった場面で書かれている。
主人公である知盛はこの矛盾を抱え、平家だけでなく頼朝によって殺される運命にある
ライバルの義経のことまで想いを馳せている。
ビジネスでも同じではないだろうか?
自分たちが考え抜いた商品やサービスは消費者に認められてヒットすると考えるから世の中にだす。
しかし、うまくいかないこともあるし、ライバル企業は指を咥えて見ていてはくれない。
そこにビジネスシーンでの勝ち負けができてしまうが、その時の社長(大将)としての
想いや行動は社員や消費者に響くと思う。
それにしても歴史にはロマンがある。
何故なら、歴史には余白が多いから。
全ての事柄が詳細に残されていれば、これほどロマンを感じることはない。
余白にこそ、人の想像が入り込む余地があり、物語に彩りが生まれる。
今村翔吾さんは、この余白の使い方が恐ろしく上手い。
現代の時代小説家では是非オススメしたい作家の一人である。
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