児童文学には収まりきらない圧倒的な世界観。
子供にはもちろんのことながら、大人にこそ読んでほしい長編ファンタジー。
『守り人シリーズ』 上橋 菜穂子著 偕成社
本に書かれている著者の上橋 奈穂子さんのプロフィールをみると、
文化人類学者でオーストラリア先住民のアボリジニの研究をしていると書かれている。
納得である。
守り人シリーズを支えている圧倒的な世界観は上橋さんのバックボーンを知ると
理解ができる。
児童文学として発売されている同シリーズであるが、子供だけでなく大人のファンが
非常に多いシリーズである。
それは、大人が読んでも楽しめる物語だからである。それは、先述した世界観を成立させる
政治、経済、地政学、歴史、文化などがしっかりと書かれているからだと言える。
物語は女用心棒のバルサを主人公に幼馴染で薬師のタンダ、新ヨゴ皇国の皇太子であるチャグム、
タンダの師匠で呪術師のトラガイなど魅力的な登場人物が溢れている。
それぞれのキャラクターの人生が伏線になっていて、物語を通して紐解かれ、また物語の中で
成長をしていく。どのキャラクターに感情移入して読み進めるかは読者に委ねられるが、
だからこそ、それぞれのキャラクターになりきって場面を楽しめば、何度も読み返すことができる
ほど、完成度の高い作品である。
その個性的なキャラクターが活きるのも先述している骨太の世界観があるからに他ならない。
子供が読むには難しいであろう、物語のバックボーンになる設定こそ、大人が読むにあたっては、
心地よく、安心感をもつ理由になる。
また物語上、いろいろな国が出てくるのだが、それぞれの国が魅力的に描かれていて、
文章を読むだけで目の前に写真、いや、自分自身がそこの国にいるような感覚になれるほど、
情景描写が丁寧に描かれている。読むだけで自分が知らない国にワープした気分になれる。
そして、さらに魅力的なのが食事に関する描写と戦闘に関する描写である。
食事に関しては聞いたことがない料理にも関わらず、美味しそうな料理を自分が食べているような
気持ちになるような表現がされているし、戦闘についても目の前に敵がいて、自分が戦っているような
気分になるほど、息遣いや緊張感を感じることができる。
シリーズはバルサが主人公の守り人シリーズをはじめ、チャグムが主人公の旅人シリーズ、
バルサの子供時代の話や他のキャラクターを主人公にした外伝や短編集を合わせると、
13冊が発売されている。
どの本も素晴らしくてオススメだが、まずは第1巻にあたる『精霊の守り人』を読むことを
オススメする。『精霊の守り人』を読めばこの世界観に誰もがハマる。13冊を一気読みした後、
長く息を吐き出して頭の中で想像を巡らせると、本当にあった中世の歴史を追体験した感覚を
味わえるはず。
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